5.司祭長


今回は、「司祭長」のカードについて読み解いていきます。

……突然ですが、質問です。あなたにとって「正しいこと」って何ですか? 約束を守ること?嘘をつかないこと?人のものを盗らないこと?
いずれも、常識的には、正しいことですよね。
この、「常識的に正しいこと」は、世間の多くの人が「正しい」と思っているから成り立っています。この「正しさ」を支えているのが、このカード、「司祭長」なのです。

1つ前に出てきた「皇帝」は、国家の運営、政治経済をつかさどる「現実世界」の支配者でした。
今回学んでいく「司祭長」は、人々の心のよりどころであり、尊敬すべき対象である「精神世界」の支配者なのです。その部分を頭に置きながら進めていきましょう。

このカードは、「司祭長」のタイトル通り、「神の教えを説く者」の姿を描いたものです。一説では、キリスト教の最高指導者である「ローマ法王」の姿を描いたのではないかと言われています。

まず、絵柄に注目してみましょう。
赤い法衣を身にまとった人物が、椅子に腰かけている様子が見えます。男性の左手にはパーパルクロス(三位一体をあらわす十字架)が。右手はかかげ、祝福のポーズをとっています。男性の足元には2人の人物が鎮座していて、ざんぎり頭であることから、弟子である様子が見てとれます。

この人物が説く「神の教え」とは、世の中にとって正しいとされることです。「正しいこと」すなわち、世間でいう常識、秩序、ルール、マナー、しきたりなどを、誰にでもわかりやすい言葉で説いていきます。

「教える」ということで、ある職業が思い浮かびませんか?
そう、実は私たちの身近にも「司祭長」的な人物は存在します。例えば「学校の先生」。絶対的に正しい、お手本のような存在であり、小学校のころ先生から「常識、ルールやマナー」を教わってきた覚えがあるかと思います。「先生」は、学年に合わせて分かりやすい言葉で「正しいこと」を私たちに説いていくのです。

この「司祭長」のカードが出たからといって、「学校の先生と関わりがあるの?」と考えるのは少し違います(時にそういう場合もありますが)。そうではなく、「司祭長」が説いている事柄に注目してみてください。私たちの世界では、常識やマナー、すなわち「約束ごと」が成立するから、さまざまなことが成り立っています。結婚生活もひとつの「約束ごと」でしょう。このカードは、約束を守り合うことで築かれる他者への信頼と敬意をあらわす姿なのです。

一つ付け足すならば、恋愛の場面でこのカードが出てくると、少し物足りないかもしれません。相手の気持ちのところに出た時は、「すばらしい人だ」とは思っても、「熱烈に愛している」のとは違いますから…。「司祭長」は、決して心乱れず、「正しいこと」を説いていくのです。