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【第2回】
「天国に一番近い場所(愛の闘病記)」

kaowitchは1年ほど前に14年連れ添ったパートナー(事実上の夫)を癌で亡くしました。

それは稀な癌であり、直前まで症状が出ることがなく、健康診断や医者の診断でも、またMRI、CT、X線、その他の検査でも見つからず、腹鏡手術で初めて発見されたものですから、発病・緊急入院から余命数ヶ月という告知まではわずか16日でしたが、彼はその告知を冷静に受け止めました。
おそらく彼は、kaowitchが数年前からそれとなく伝えていた未来予知の意味を「これだったのか」と理解したのでしょう。また彼はkaowitchと14年間暮らす中で宿命の意味を知り、そのために死を受け入れられたのだと思います。
そして、彼はやりたいことを十分にやってきてさまざまなことを成し遂げ、また生きることのつらさも知っていたが故に、その死を受け入れられたのでしょう。
ただ彼は「カオともっと一緒にいたかった」と、それだけ言いました。

それから1カ月半の入院を終え自宅療養に。自宅療養での医療的行為は緊張と戸惑いがありましたが、メンタルケアは、われながらパーフェクトだったと自負しています。
とにかく彼が肉体的にも精神的にも苦痛がないようにと努めました。そして、2人で協力してさまざまなことを乗り越えていきました。
その結果、絶望的になることはなく、冗談を言ったり、笑ったり、穏やかな時を過ごすことができました。

ここに、彼の友人であり先輩である人が、闘病中に彼から受け取ったメールを後にkaowitchに送ってくださったものをお見せしますね。

『僕がイラついてカオに当たってしまう時があるけど、最近は文句も返さず、何でも、何を言っても甘やかせてくれるのか、受け止めてくれます。
僕は内弁慶で、そのことをカオはよく理解しています。
カオのありがたさと、今の時間を懸命に大切にしてくれるカオ自身に励まされ助けられます。
ほんとは一言返したいところなんだろうけど、じっと僕を優しく受け止めてもらって、自分は幸せです。』

約2ヵ月半の自宅療養を終え、緩和ケア病棟に入院。それは旅立ちの日から約2カ月前のことでした。
緩和ケア病棟とは、治療が望めないと診断された末期癌の患者が入院できるところで、癌を治す治療はせずに、肉体的にも精神的にも苦痛を和らげる治療をするところです。
ある意味、そこは病院内で天国に一番近い場所でしょう。
最近の医療用モルヒネは進歩していて、モルヒネを投与しても普通の状態を保つことができ、病室はホテルのような作りなので、そこでは穏やかに過ごすことができました。

末期癌の患者は徐々に体の機能が衰えていき脳の機能も衰えるため、幻覚を見たり、思考力が低下したり、物を理解する能力が衰えたりします。
通常、終末期の癌患者は幻覚を見るようになってから3日から1週間で亡くなるそうですが、彼は基礎体力があったのか、幻覚を見始めてから1カ月生きていました。そして彼はいつも愉快で心地よい幻覚を見ていました。
看護師さんの話によると、死を受け入れている人は心地よい幻覚を見るそうですが、受け入れていない人は良からぬものを見るそうです。
彼は、最初は自分で幻覚を見ている自覚がありましたが、徐々に理解力が衰えていき、幻覚の世界に浸るようになり、うまい具合に現実逃避ができていきました。
そのように死に対する恐怖を味わうことなく過ごせたのも、プロフェッショナルな緩和ケア病棟の看護師や医師のおかげでもあり、メンタルケアに関してはプロフェッショナルなkaowitchが傍らで幻覚の世界にお供できたからでしょう。

彼は現実逃避しているものの、本能は旅立ちの日が近づいているのを知っているようで、旅立ちの10日ほど前、「俺ら、もうそろそろ行かないとな、長居しちゃ悪いからね」と、彼はリゾートホテルにでもいるかのようでした
5日前
「ここの病院の名前なんて言うの?」(彼)
「M病院だよ」(カオ)
「家から近いの?」(彼)
「うん、近いよ」(カオ)
「そしたらすぐ帰れるね。ドライバー(運転手)用意しておいてね」(彼)
と…。
ドライバーとは、またまたリゾートホテル気分ですね。

3日前、彼は体を動かすことも話すこともできなくなりましたが、どうやら聞こえているようで、「明日からカオはここに泊まりだからね」と言うとにっこり笑っていました
それまでは夜になってカオが病室から出ていく時は寂しそうな顔をしていましたが、泊まることになってとても嬉しそうでした。泊まることの意味を幸い理解していないようでした。
2日前、「もうすぐ、おうちに帰れるよ。和室に布団、敷いておいたからね」と言うと、彼はすごく嬉しそうな顔をしていました。
生前彼は海外出張が多く、海外出張から帰ってくる時は、いつもフカフカにした布団を和室に敷いていましたので、それと同じように、病院に泊まる前に用意しておきました。
今でも彼のその時の嬉しそうな顔を鮮明に覚えています。
そして旅立ちの日、桜が満開になりました。

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原稿提供元アカデメイア